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【COLUMN】リモートワーク・在宅ワークで加速するジョブ型雇用。ジョブ型雇用で何が変わる?

2020年7月下旬、西村経財相が記者会見にて新型コロナウイルスの感染防止策の要請項目の一つとして「在宅勤務を7割」という目標を経済界に再要請しました。こういった流れから、カルビーや富士通をはじめ、大手企業を中心に多くの企業が在宅勤務やリモートワークへのシフトなど、多様な働き方を推進しはじめました。

これまで労働人口の減少を背景に、「働き方改革」の1つとして注目を集めてきたテレワークが、新型コロナウイルスの拡大感染防止による取り組みから、多くの企業で導入され、テレワーク活用が急激に進みました。「多くの人が一箇所に集まる」ことがリスクであるいま、テレワーク・在宅ワークは「ニューノーマル」(新日常)になりつつあります。またこの様な大きな変化は、雇用主側の雇用のあり方を見直す機会にもなっているようです。

中でも、リモートワーク・在宅ワークの加速により、パートナーシップ型雇用からジョブ型雇用への切り替えをする企業やジョブ型雇用の導入の検討を始めた企業が増えているという話を耳にする様になりました。ジョブ型雇用が進むと、私たちの働く環境にどんな変化が起きるのでしょうか?

まず、いま注目されているジョブ型雇用について説明していきます。

<ジョブ型雇用とは >

ジョブ型雇用は仕事をベースとした雇用契約のことです。会社と労働者の間で「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を作成し仕事内容、勤務地、勤務時間、報酬などを明確に定めます。契約した労働者はジョブディスクリプションに沿って仕事を行います。仕事内容が決まっていることから人事評価として重視されるのは「仕事の成果(パフォーマンス)」であり、勤務態度や働く意欲といったプロセス面はあまり評価されません。 

労働者としては、自身のスキルや経験をベースに報酬を得られるため、会社に縛られることなく、適正な報酬が得られる仕組みと言えるでしょう。また、雇用側としては、事業やプロジェクト単位で必要な時に必要な量と質のリソースを確保すれば良いので、欠員が出た際にもダメージが少ない仕組みであると言えそうです。

< なぜ、ジョブ型雇用がいま注目されてるのか?>

ジョブ型雇用は、前述したとおり「仕事」に対して「人」をアサインする形態の雇用スタイルです。従って、時間や場所の制限がされにくいため「リモートワークが行いやすい」と言えます。また「残業が発生しにくい」のもジョブ型雇用の特徴です。残業が発生する要因として「割り込みの仕事が入る」など予期せぬ作業の追加があります。ジョブ型雇用の場合は契約の段階で行うことが決まっており、契約外の仕事を任されることはありませんので、仕事の見通しが立てやすく、残業が発生しにくいと言えるでしょう。 新型コロナウイルス感染拡大防止施策の影響で、こういった特徴を持つジョブ型雇用が注目されていますが、2020年(中小企業は2021年)から雇用形態にかかわらず労働に対して同じ賃金を支給する「同一労働同一賃金ルール」が各社で運用され始めていることも、ジョブ型雇用への注目を後押ししていると言えそうです。

一方、ジョブ型雇用の注意すべき点としては、「新人や若手の活用がしにくい」ことです。行う仕事が決まっているジョブ型雇用は、言い換えれば「指定した仕事ができる」ことが前提となります。そのため仕事に対するスキルや知識が不足している新人や若手は、行える仕事が少ないことからジョブ型雇用を取り入れている企業では仕事をアサインされにくく、挑戦するステージがあまり無い点を抑えておく必要がありそうです。 

<パートナーシップ型雇用とは> 

パートナーシップ型雇用は人をベースとした雇用契約のことです。会社と労働者の間で雇用契約を行いますが、勤務地や仕事内容については明確に定めなくても良いとされています。そのため、雇用主は会社の状況に合わせて人員配置を行い、労働者に対して勤務地や仕事内容を通達することができます。仕事内容が業績や事業の進捗状況によって変化するため、人事評価では仕事のパフォーマンスだけでなく、勤務態度や仕事に対する姿勢などのプロセス面も重視されるのが特徴です。 

また採用時も経験やスキルが全く無い新卒の採用が出来ます。ポテンシャル重視で採用した人材をOJTや座学などの研修を通して育成し、ジョブローテーションのもと、さまざまな業務にアサインし、ゼネラリストを育成していくのが、一般的なパートナーシップ型雇用を取り入れている企業のスタイルと言えそうです。職に就くというより会社に就くという色合いを強くしている様子がうかがえます。

<パートナーシップ型雇用が今まで日本で主流だったワケ>

日本でパートナーシップ型雇用が主流であった理由は、「年功序列」「終身雇用」を前提としていた企業が多かったからと言えます。いわゆる高度経済成長期の製造業をイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。どんな仕事であっても「人」に対して「職」をアサインするため、会社側で労働者に対して様々な仕事を割り振れます。一方、社員が与えられた仕事を遂行するだけのスキルを習得させる必要があるため、多くの会社では新人研修や管理者研修など様々な研修プログラムを用意しています。雇用主としては、教育機会を提供し育成することで社員を様々な業務にアサインすることができ、従業員としては、会社の教育によりスキルアップを図ることができます。 

またパートナーシップ型雇用は従業員に「雇用の安定」を提供している、とも言えるでしょう。ジョブ型雇用の場合は仕事をベースに雇用契約を交わすため、仕事がなくなったときは解雇されることがあります。一方、パートナーシップ型雇用の場合は会社と労働者が雇用契約を結ぶため、仕事がなくなったとしても部署異動などを行い、ほかの業務を担当させるなどで雇用を継続させる必要があります。このように、かつての日本は「終身雇用」「年功序列」が当たり前とされていたため、パートナーシップ型の雇用が多かったのですが、現状では、もはや「終身雇用」「年功序列」の考え方は崩壊しているとも言えます。また、「リモートワーク」が行いにくい点も、パートナーシップ型雇用が見直される要因になってきそうです。「リモートワーク」が行いにくい点として、パートナーシップ型雇用を実現する際の肝とも言える研修の実施が一つの争点となりそうです。

会社がおこなう教育は座学研修に留まらず、OJTなど仕事をしながらの教育をするタイプも含まれています。OJTは「教える人がそばにいること」を前提としているのですが、リモートワークでは教える人と教わる人の物理的な距離が離れてしまうため、実施しにくくなってしまいます。

< ジョブ型雇用が増えると働き方にどんな変化が起きるのか?>

ジョブ型雇用とパートナーシップ型雇用はそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらがよいのかは一概には決められません。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大防止施策の影響で、オフィスに集まって業務を行うことに一定の制限が生じたことをきっかけに、ジョブ型雇用に注目が集まっている様です。ただし、本格的に切り替えるには、業務プロセスの見直しや評価制度の再構築、オフィスで勤務することを前提としていた様々なルールや福利厚生、各種制度面の見直しなど、改革していく必要がありそうです。準備なく移行してしまうことで、従業員の混乱や管理者の不安を引き起こしてしまう可能性もあるため、慎重に進める必要がありそうですね。 次回は、ジョブ型雇用の導入にあたって、どのような点に気を付ける必要があるのか、について触れていきたいと思います。