Contents

【COLUMN】ジョブ型雇用導入時の注意点。やってはいけない○○は?

リモートワーク・在宅ワークのシフトにより、各企業が従業員の姿が見えない中で人材マネジメントをすることの難しさに直面したり、今まで慣習的に継続されていた業務が、時間や環境の制約によって必要な業務なのかを考え直すきっかけになるような機会になったりと、様々な影響を及ぼしています。そのようなことから、アフターコロナ、ウィズコロナにおいての働き方や雇用のあり方についても、従来のパートナーシップ型雇用から「ジョブ型雇用」の導入に舵をきる企業も出てきました。

しかし、ジョブ型雇用は、導入すれば全ての問題が解決するような魔法の杖ではありません。今回は、ジョブ型雇用の導入を検討するにあたって気をつけるべき点についてご紹介していきます。

会社の状況に併せた準備を!

「在宅勤務者が多く、社員がバラバラにそれぞれの仕事をしているから、ジョブ型雇用に移行した方がいい」と考えるのは早計です。ジョブ型雇用の導入にあたっては、会社の状況に併せてさまざまな準備を行う必要があります。

準備することの1つは「ジョブ(職務)の明確化」です。ジョブ型雇用とは、会社に必要なジョブ(職務)とその価値を明確にし、ジョブに合う人を配置・採用し、その価値に応じて報酬を支払う趣旨の制度です。ですから、まず、各ジョブ(職務)をジョブディスクリプション(職務定義書)として言語化する必要があります。ジョブディスクリプション(職務定義書)では、目的、ミッション、必要な経験、必要なスキルなどを明確にし、成果で評価するならば、ジョブと同時にそのジョブにおける評価の基準を明確にしていく必要があります。ジョブそのもの(職務、仕事の範囲、役割、責任など)を明らかにすることが重要であり、そこには十分な議論が必要となるでしょう。

2つ目は「昇進・昇格」に対する考え方です。ジョブ型雇用とパートナーシップ型雇用では「昇進・昇格」の考え方が異なっています。パートナーシップ型雇用では、業務のパフォーマンスのみならず、仕事に取り組む姿勢やチームワークなど、業務に直接的に関係ない様に思えることも、評価に入る場合があります。また、パートナーシップ型雇用では担当するジョブ(職務)があいまいなので、能力と意欲があれば、仕事を広げていくこともできます。従って、昇進・昇格についても、直接的な業務成果以外の取り組み姿勢や組織貢献度合いの高さなど、業務に直接的に関係ない様に思えることも判断材料となっているケースが多いと言えそうです。一方、ジョブ型雇用の場合は、業務自体の完遂が当然なすべきこととして据えられているため、業務成果やジョブ(職務)の遂行度合いが昇進・昇格の判断材料となるといえます。

また、ジョブ型雇用だと上位ポジションが埋まっている場合、新たなポジションができない限り上がることはできないと言えるでしょう。あくまでもジョブ(職務)に応じた報酬が支払われるという考え方なので、ジョブ(職務)の範囲や定員が厳密であるがゆえに、ジョブ(職務)のスキル・専門性が頭打ちだったり、上位ポジションに空きがない場合は、報酬上昇が止まる可能性があります。「より上位の役職を得たい!」「専門性を高めたい!」という方は転職を検討する必要がありそうです。

すなわち一言で「昇進・昇格」と言っても、パートナーシップ型雇用のキャリアの考え方とジョブ型雇用のキャリアの考え方とでは、大きくキャリアの築き方や将来設計が異なってくるでしょう。

ジョブ型雇用への移行は、一朝一夕で行えるものでは無い

ジョブ型雇用は、いきなり導入できるものではないことを理解しておく必要があります。現段階でジョブ型雇用の導入を検討しているということは、言い換えれば、現状はパートナーシップ型雇用で組織運営をしていることを表しています。パートナーシップ型で雇用していた社員を、いきなりジョブ型に雇用変更を行うなどは、現場で大きな混乱を招く恐れがあり、また経営にも大きな打撃を与える可能性があるため、慎重に行う必要がありそうです。

コロナ禍で、リモートワーク・在宅ワークの導入・活用が急激に進み、特定の職種や職場で「ジョブを個々に切り分けたほうがうまくいく」と実感したケースも見られたかと思います。しかし、どんな仕事であっても「人」に対して「職」をアサインし、会社側で労働者に対して様々な仕事を割り振る”パートナーシップ雇用”という組織のあり方が、日本では定着し、運営されてきました。今の時代、環境に合わせた変化や変革が急がれますが、企業は人の集まりでできていて、根付いた組織のあり方は、仕組みを変えるだけではそう簡単には変わらないということを認識した上で、検討を進める必要があるでしょう。

ジョブ型職種の洗い出しとグレード分けやジョブ・ディスクリプション(職務記述書)の整理、報酬・評価制度の見直し、タレントマネジメント・人材戦略の見直しなど検討項目は多岐に渡りますが、いずれも社内でコンセンサスを得ながら進めていく必要があるでしょう。

経営戦略に沿って仕事を考える

ジョブ型雇用では”ジョブ”に合わせて必要な人材を雇用することになりますが、むやみやたらに業務に合わせて人員を配置すればよいというものでもありません。経営戦略をベースに業務設計を行い、それに合わせた人員配置が重要になります。

経営戦略を実現するためには、業務の追加だけでなく、不要な業務の精査をすることも必要になります。そのため、ジョブ型雇用では新しい業務へのアサインだけでなく、なくなった業務に対する人員の扱い方に関しても、方針を定めておく必要があります。

解雇と雇用について

ジョブ型雇用とパートナーシップ型雇用では働き方が異なるため、解雇と雇用について改めて整理する必要があります。人の細胞が一定周期で新しくなるように、企業の経営も新しい業務が誕生したり古くなった業務が淘汰されたりします。ジョブ型雇用では、あくまでジョブをベースに人を配置することから、ジョブが変化すれば人員をアサインしたりリリースしたりを定期的に行わなければなりません。

中でも注意が必要なのは解雇です。「不要な人員は即座に解雇」という訳にはいきません。法律上の定めもありますし、他の社員のモチベーション低下など、与える影響も多大です。例えば一人の社員の解雇かもしれませんが、残った社員は「次は自分が解雇されるのでは」と疑心暗鬼に陥ることもあり、仕事に対するモチベーションやパフォーマンスにも影響するでしょう。

また新しい人員をアサインする際にも同様です。労働力不足が謳われるいま、欲しい人材にタイムリーにジョインして貰えるとは限りません。

また欲しい人員にジョインしてもらうには、周知をしたり書類選考を行ったり面接をしたり…膨大な時間やお金がかかります。またせっかくコストをかけても、条件を満たす人材が集まらず、時間やお金を浪費するといった事態に陥ることもあります。

ジョブ型雇用に移行する際の注意点、さまざま言及してきましたが、もちろんメリットも多数あります。導入は慎重に、時代や環境、個々の会社の特性に適合する組織のあり方への変化となる移行が進められると良いですね。